有機農産物の評価に関する基準と学術的根拠

国の制度・有機JAS/特別栽培の定義・生物多様性・グリホサートに関する国の考え方
食料統合支援センター(つばきまちづくり合同会社) オーガニック地域づくり事業部会
つばきフウド「有機評価(S〜D)」の前提資料(第1版・たたき台)
本書の目的。 つばきフウドでは、給食食材ごとに「有機評価(S・A・B・C・D)」を付けています。評価で点差をつける以上、「なぜ有機的な農産物をより高く評価するのか」という根拠を、だれに聞かれても説明できる形で整えておく必要があります。本書は、国(農林水産省・食品安全委員会等)の制度と、査読論文を含む公的な調査に基づいて、その根拠を整理したものです。
最重要の前提。 本評価は慣行栽培(一般的な栽培)を「危険」「劣る」とするものではありません。わが国では登録農薬は安全性評価を経ており、残留基準の範囲内で管理された農産物は、有機・慣行を問わず安全とされています。国が有機を推進する主眼は「安全性」ではなく、環境負荷の低減・生物多様性・持続可能性・表示の信頼性にあります。本評価もこの立場に立ち、安全性の優劣ではなく、環境・地産地消・予防的な観点からの相対的な位置づけを示すものです。

第1章 国の制度的枠組み

1.1 有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)

同法第2条は「有機農業」を、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業と定義します。

また基本理念として、有機農業は農業の自然循環機能を大きく増進し、農業生産に由来する環境への負荷を低減するものであり、また、安全かつ良質な農産物に対する消費者の需要に対応した農産物の供給に資するものと位置づけられています。ここに、国が有機農業を評価する理由(環境保全・消費者需要への対応)が端的に示されています。

1.2 みどりの食料システム戦略(令和3年5月)とみどりの食料システム法

農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定し、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを掲げています。2050年までに目指す姿として、次を含む14のKPI(重要業績評価指標)を設定しています。

2030年の中間目標も令和4年6月に設定されました(有機農業の取組面積 約6.3万ha 等)。これらを法的に裏づけるものとして、みどりの食料システム法(正式名称=環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律)が令和4年4月に成立、同年7月1日に施行されています。

1.3 オーガニックビレッジ

「オーガニックビレッジ」とは、有機農業の生産から学校給食での利用(消費)まで、地域ぐるみで一貫して取り組む市町村を指します。農水省は2025年に100、2030年に200市町村の創出を目標としています。全国初のオーガニックビレッジ宣言は、消費地・大阪府泉大津市と生産地・北海道旭川市が共同で行い、泉大津市は学校給食「ときめき給食」でオーガニック米・味噌等を取り入れています。つばきフウドの取り組みは、この国の政策潮流と同じ方向にあります。

第2章 栽培区分の定義(国の制度に準拠)

区分定義(国の制度・ガイドライン)
有機JAS等JAS法に基づく規格。播種・植付け前2年以上(茶・果樹等の多年生は3年以上)、化学的に合成された肥料・農薬を使用していないほ場で生産。遺伝子組換え・放射線照射を用いず、周辺からの禁止資材の飛来・流入を防ぐ措置を講じる。登録認証機関の検査を受け認証された事業者のみが有機JASマークを表示でき、マークのないものに「有機」「オーガニック」と表示することは法律で禁止される。
特別栽培等その地域の慣行レベル(各地域で慣行的に行われている使用状況。地方公共団体が設定)に比べ、節減対象農薬の使用回数が50%以下、かつ、化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培したもの(両方の節減が必要)。国の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に準拠。
一般品(慣行)その地域で一般的に行われている方法で栽培したもの。国の残留農薬基準(ポジティブリスト制度)等の範囲内で管理された安全な農産物である。

※ 特別栽培では、農薬を栽培期間中まったく使わない場合「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と表示します。「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」等の表示は、基準や実態が不明確で誤認を招くため用いません(用語を「特別栽培農産物」に統一)。

第3章 国が有機農業・有機JASを評価する理由

第1〜2章の制度趣旨を総合すると、国が有機農業・有機JASを評価・推進する理由は、主に次の4点に整理できます。

  1. 環境負荷の低減。化学農薬・化学肥料の使用を減らし、土壌・水系への負荷や環境中への残留を抑える(みどり戦略のKPIが定量目標を示す)。
  2. 自然循環機能の増進・生物多様性の保全。有機農業推進法の基本理念であり、第4章の全国調査に実証的裏づけがある。
  3. 消費者需要への対応と表示の信頼性。安全かつ良質な農産物を求める需要に応え、第三者認証(有機JAS)で「有機」表示の信頼性を担保する。かつて「有機」「減農薬」等の紛らわしい表示が横行した問題への対応でもある。
  4. 持続可能性・国際潮流。SDGs・気候変動対応、拡大する国内外の有機市場への対応(オーガニックビレッジ等の産地づくり)。
要点。 国は「慣行が危険だから有機」と言っているのではなく、「環境・持続性・表示の信頼性の観点で有機をより評価する」という立場です。この立場を、そのまま本評価の土台にしています。

第4章 環境・生物多様性に関する学術的根拠

有機・農薬節減栽培が生物多様性に与える影響については、農研機構(農業環境変動研究センター)・東北大学・名古屋大学ほかによる全国規模の野外調査があります。2013〜2015年に全国1,000以上の水田ほ場を対象に、植物・無脊椎動物・両生類・鳥類を調査したものです(Journal of Applied Ecology, 2019)。主な知見は次のとおり。

この結果は、「化学農薬・化学肥料を減らすほど、農地の生物多様性が保たれやすい」という評価軸に、査読論文レベルの裏づけを与えます。田畑は食料生産の場であると同時に、地域の生きものを支える基盤でもあります。

第5章 食品の安全性と農薬(グリホサート)に関する国の考え方

5.1 わが国のリスク管理の枠組み

わが国では役割を分担して農薬の安全性を管理しています。食品安全委員会が科学的な「リスク評価(食品健康影響評価)」を行い、厚生労働省がその結果を踏まえて食品中の「残留基準」を設定(ポジティブリスト制度:基準の定めのない農薬は一律0.01ppm)、農林水産省が農薬取締法に基づく登録を行います。

5.2 グリホサートの食品健康影響評価(食品安全委員会)

食品安全委員会の農薬評価書(2016年、2023年に再評価)では、動物試験等に基づき次のように評価されています。

5.3 残留基準の設定と2017年の改正

2017年12月、小麦のグリホサート残留基準が5ppmから30ppmに引き上げられました。これは、農薬取締法に基づく基準設定の要請と、輸入小麦(米・カナダ・南米等)を管理する国際基準への整合を背景に、食品安全委員会の食品健康影響評価を経て行われたものです。残留基準値はADIの範囲内で各作物に配分される「内訳」であり、基準値の増減がそのまま安全性の変化を意味するわけではない点に留意が必要です。

5.4 IARCと各国規制機関の評価の相違 ── 「ハザード」と「リスク」

グリホサートの発がん性をめぐっては国際機関の間で結論が分かれており、この理解が論点の核心です。

機関・評価結論
IARC(国際がん研究機関) 2015年3月グループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類(ヒトでの限定的証拠、動物での十分な証拠、遺伝毒性の強い証拠に基づく)。=ハザード評価
EFSA(欧州)2015JMPR(FAO・WHO)2016/EPA(米)/BfR(独)/食品安全委員会(日本)食事由来の暴露では発がんリスクは生じにくい/低いと結論。=リスク評価
相違の本質は評価の枠組みの違いです。 IARCの「ハザード評価」は、その物質に発がんの潜在的な可能性があるか(暴露量を問わない危険性の有無)を同定します。これに対し規制機関の「リスク評価」は、現実の摂取量のもとで実際に健康影響が生じるか(危険性 × 暴露量)を評価します。IARCの2A区分には、赤肉や65℃以上の熱い飲み物なども含まれることが、この違いを象徴しています。どちらが正しい・誤りという話ではなく、問いの立て方が異なるということです。

5.5 以上を踏まえたセンターの立場

したがって、「規制の範囲内で管理された農産物は、有機・慣行を問わず安全」という前提は維持します。その上でセンターは、環境負荷の低減・生物多様性・地産地消という観点と、めぐりめぐって子どもたちの体に入るものだからこその予防的な安心感(precautionary な考え方)を理由に、有機的な農産物を相対的により高く評価します。安全性を根拠に慣行を否定するものではありません。

第6章 つばきフウドの評価マトリックスへの反映

以上の根拠を、「産地の近さ(地産地消)」×「栽培方法(環境負荷・生物多様性)」の2軸の掛け合わせとして、S〜Dに反映しています。現行の対応は次のとおりです。

産地 \ 栽培有機JAS等特別栽培等一般品(慣行)
町内SAC
県内BBC
国内(県外)CCC
外国DDD
継続して議論・見直しが必要な点。 ①「外国産の有機」と「町内の慣行」の扱い(現状は地産地消を重視し外国産を低めに設定)。②「安全性はどちらも確保されている」を前提に、何をもって“より良い”とするか(環境・生物多様性・地域経済・予防的安心感)をその都度説明できるようにする。③専門家・先進地(泉大津市の取り組み、講演で学んだ知見等)の考え方を取り入れ、評価軸と配点を更新していく。

参考文献・出典

※ 本書は運用の前提を共有するための第1版(たたき台)です。各数値・制度の詳細は出典の最新情報をご確認ください。専門家の助言を得ながら継続的に更新します。ご意見・修正のご提案を歓迎します。